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ある一日 / A DAY / 1954 / 10 MIN READ

1954年、ニューヘイブン、寮の朝から夜まで

部屋も同居人も選べず、規則はないのに全員が同じ格好をしている。アイビーリーグに名が付いた年の、寮の一日。

1954年、ニューヘイブン、寮の朝から夜まで

ニューヘイブンは、ニューヨークから列車で二時間ほど北東へ行った、コネチカット州の港町である。この町の名を有名にしているのは、1701年創立のイェール大学だ。町の中心にキャンパスがあり、石造りの寮と図書館が並ぶ。

1954年、この大学を含む東部八校の対抗戦の申し合わせに、正式に「アイビーリーグ」という名が付いた。もともとは運動部の連盟の呼び名である。それが服装と暮らし方の代名詞になるのは、もう少し後のことだ。

前回は、六十年前のロンドンの朝を歩いた。ガス灯にマッチで火を入れ、床いっぱいに朝刊を広げる暮らしである。今回は、その大学の寮の一日を追う。起床の景色は、あの居間とは似ても似つかない。二段ベッドがあり、ルームメイトがいて、朝食は食堂で摂る。共通しているのは、机の上だけである。

特定の誰かの一日ではない。当時の写真、卒業生の回想、大学の記録から組み立てた、二年生の火曜日である。

寮の一室。二段ベッドと、机が二つ。
寮の一室。二段ベッドと、机が二つ。

6:40 部屋も、同居人も、選べない

窓の外はまだ暗い。二段ベッドの上段で、ルームメイトが眠っている。この部屋割りは大学が決めたもので、学生の側に選択権はない。出身も専攻も違う相手と、一年間、四畳半ほどの空間を分け合う。個室が持てるのは上級生になってからだ。

机の上の真鍮のランプだけを点ける。緑の傘は光を机の上にだけ落とすから、上段は暗いままでいい。灯りを一人分に区切るこの形は、半世紀前のニューヨークの図書館で生まれ、いまは寮の必需品になっている。

緑の傘のランプ。光は机の上にだけ落ちる。
緑の傘のランプ。光は机の上にだけ落ちる。

7:10 レポートは、手で書く

昨夜の続きを書く。タイプライターは高価で、学生の全員が持っているものではない。授業のノートも、提出するレポートの下書きも、万年筆で書く。

インクは、書いた先から乾くわけではない。紙によっては数十秒濡れたままだから、革のブロッターに挟んだ吸取紙を押し当てて余分を取る。机に革を一枚敷いておくのは、そのためだ。開いたままの辞書は、真鍮のブックエンドで留めてある。この二つは、たいてい実家から持ってきたものだった。

革のブロッターと、真鍮のブックエンド。
革のブロッターと、真鍮のブックエンド。

7:40 規則はないのに、全員が同じ格好になる

ボタンダウンのシャツに、細い縞のタイ。上はネイビーのブレザー。足元は靴下を履かずにペニーローファー。

制服の規定があるわけではない。それでも寮の廊下を歩く学生の大半が、同じ組み合わせをしている。違うのは、靴の傷み方と、タイの縞の色くらいだ。決まりがないのに全員が揃うという、この土地特有の同調が、のちに「アイビー・スタイル」と呼ばれることになる。

ボタンダウンにレップタイ、ネイビーのブレザー。
ボタンダウンにレップタイ、ネイビーのブレザー。

8:00 食堂は、上着を着て入る

寮の食堂へ。多くの大学で、食事の場では上着を着ることが規則だった。寝起きの学生も、とりあえずジャケットを羽織って階段を下りる。

長い木のテーブルに、コーヒーとトースト。上級生と下級生が同じ卓につき、席は早い者順である。

12:30 芝生は、通り道ではない

講義のあいだの空き時間。中庭の芝生にタータンのブランケットを広げ、ジャケットを枕にして二十分ほど眠る。芝生は移動のための場所ではなく、居場所だった。

十一年後、この景色を日本から来た撮影隊が撮ることになる。彼らが最も多くフィルムを使ったのが、この昼下がりの芝生である。誰もポーズを取らず、ただ歩き、寝転び、話している。撮られ慣れていない学生たちの姿が、海の向こうで一冊の写真集になる。

中庭の芝生。ブランケットと、脱いだジャケット。
中庭の芝生。ブランケットと、脱いだジャケット。

16:00 どこかの部に属している

ボートハウスへ。体育はほぼ必修で、なんらかの運動部に籍を置くのが当たり前だった。川の水はもう冷たい。

校名の文字を縫い付けたセーターは、練習中には着ない。帰り道に羽織るものである。学内で誰が何をしているかは、この一着で伝わった。

19:30 図書館の机は、寮の机の続き

夕食のあと、図書館へ。長机に、緑の傘のランプが等間隔に並んでいる。朝、寮の机で点けたものと同じ形の灯りだ。

光が隣に漏れないから、一つの机に何人でも座れる。この配置があるおかげで、図書館は「大勢でいながら一人になれる場所」として成立している。木の椅子の背は、少し硬い。

閲覧席。等間隔に並ぶ緑の傘。
閲覧席。等間隔に並ぶ緑の傘。

23:00 電話は、廊下に一台

寮に戻る。廊下の向こうの部屋から、レコードの音が漏れている。ジャズか、フォークか。壁越しに聴こえる音楽が、この年代の寮の夜の音だ。

電話は各階の廊下に一台あるきりで、長話はできない。家族とのやりとりは手紙が基本で、出した返事が届くのは数日後になる。届いた封書を真鍮の刃で開ける。刃の付け根は、九月に持ってきた時より少し曇っている。

手紙と、真鍮のレターオープナー。
手紙と、真鍮のレターオープナー。

この一日に出てくる机の上の道具は、どれも六十年前のロンドンの居間に原型がある。緑の傘の灯り、革の一枚、封を切る刃。変わったのは、大陸と、机の広さだけである。

そして、この机の上は、卒業と同時にトランクに戻され、それぞれの家の一室へ運ばれていく。「ある一日」は続き物だ。次は、何もない部屋から始まる、いまの一日へ。

参考:各大学の公開アーカイブ、卒業生の回想録、『Ivy Style』(FIT、2012)。『TAKE IVY』(1965)は言及のみ。食堂の上着規則や運動部の扱いは大学ごとに異なる。時刻の並びは編集部による構成です。

朝、寮の机で点けたのと同じ灯りだ。

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机の上の、革の一枚。書く場所が決まる。

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