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年表 / TIMELINE / 1909 / 6 MIN READ

1909年、緑の傘のランプ

明るくするための灯りではなく、暗いままにするための灯り。図書館の長机の光景には、発明がひとつ隠れている。

1909年、緑の傘のランプ

緑のガラスの傘に、真鍮の台。映画に出てくる古い図書館や、銀行の窓口には、たいていこの形のランプが置かれている。誰もが見たことはあるが、名前を知っている人は少ない。バンカーズランプ、つまり銀行員のランプという。

この灯りには、発明がひとつ隠れている。明るくするための灯りではなく、周りを暗いままにしておくための灯りだ、ということである。

この号は、ホームズの居間を現代の一室に組み直している。その居間の灯りは、ガス灯だった。それが六十年後、ニューヘイブンの寮の机の上では電気のランプになっている。同じ「読むための灯り」でありながら、形も仕組みも別物である。その間に何が起きたのかが、この回の話だ。

長机に等間隔の緑の傘。周りは暗いまま。
長机に等間隔の緑の傘。周りは暗いまま。

電球は、明るすぎた

1880年代から90年代にかけて、電灯が街と建物に入っていく。ガス灯と比べて火事の危険がなく、煤も出ない。だが問題があった。むき出しの電球は、直視すると目に刺さる。

それまでの灯りは、光が上へ逃げて部屋全体をぼんやり照らすものだった。天井の高い部屋なら、それでよかった。ところが電球を机の上に置くと、光源が目の高さに来る。書類を見るために点けた灯りで、目が疲れる。

1909年、傘に色が付く

この年、ニューヨークの会社が、緑のガラスの傘に真鍮の台を組み合わせた卓上ランプの意匠を登録し、エメラライトの名で売り出した。

傘は深く、光は真下にしか出ない。上にも横にも漏れない。緑のガラスは、光をわずかに和らげて紙に落とす。目に入るのは、紙で反射した光だけになる。

この形の利点は、一台で使うときより、たくさん並べたときに現れた。光が横に漏れないので、隣の席の邪魔にならない。長机に等間隔で置いても、それぞれの手元だけが明るい。

銀行の窓口。一人にひとつの灯り。
銀行の窓口。一人にひとつの灯り。

銀行と図書館が、最初に買った

採用したのは、まず銀行だった。窓口の係員が、それぞれの手元だけを見ていられる。次が図書館である。閲覧席の長机に一台ずつ置けば、大勢が同じ部屋にいながら、一人ずつの領域ができる。

大勢でいながら一人になれる場所。図書館という空間の性格が、この灯りによって完成したと言ってもいい。

半世紀後、アメリカ東部の大学の閲覧席にも、寮の机にも、同じ形が置かれていた。1954年の学生が朝、寮の机で点けた灯りと、夜、図書館で点けた灯りは、同じ意匠のほぼそのままである。

いまの部屋でも、同じことが起きる

この灯りの理屈は、電球が変わっても効いている。天井の照明を消し、手元だけを照らすと、部屋が暗くなり、机の上だけが明るくなる。

壁で光が止まるので、部屋の広さと関係なく、机の上が自分の領域になる。四畳半でも、六畳でも、寮の一室でも同じである。仕事の時間と読む時間の境目を、灯りの操作で作れるということだ。

百年以上前に決まった形が、いまも机の上にある。

参考:エメラライトの意匠登録記録、当時の広告。年号はメーカー史による。

大勢でいながら一人になれる場所。
図書館の性格は、この灯りで完成した。

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この記事に登場したもの

バンカーズランプ

LAMP No.01

バンカーズランプ

緑の傘は、光を机の上にだけ落とす。百年あまり、読む人のための灯りはこの形のままで…

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