GUIDE / MATERIAL & CARE / 8 MIN READ
物はどう古びるか ── 真鍮と革と無垢材の十年
買った日が一番きれいではない、とはどういうことか。三つの素材の十年を追う。
経年で育つ、という言い方がある。使うほど良くなるという意味だが、何がどう変わるのかは素材によって違う。真鍮、革、無垢材。この三つの十年を、順に追ってみる。
真鍮 ── 触れたところから曇る
無塗装の真鍮は、空気と手の脂に触れた面から色が沈む。速さは触れる頻度で決まるので、ランプならスイッチの周り、刃なら柄、ブックエンドなら本の当たらない側面が先に変わる。
三ヶ月で、触る場所と触らない場所の差が見え始める。半年で、その机にしかない斑になる。数年経つと全体が飴色から茶に近づき、光の当たる縁だけが明るいまま残る。磨けば買った日の色に戻せる。戻せることが、この素材の気楽さでもある。

革 ── 沈んでから、色が来る
革はまず、形が変わる。椅子なら座面の中央、ブロッターなら肘の当たる手前が沈む。繊維が体重で締まるからで、これは一ヶ月ほどで始まる。
色が変わるのはその後だ。脂と光で、沈んだところから深くなる。一年で座る位置が分かるようになり、三年で座面と背もたれに差が出る。十年経つと、他人が座っても自分の形には戻らない。
手入れは年に二度で足りる。やりすぎると表面が粘つき、変化が止まる。

無垢材 ── 全体が、ゆっくり飴色へ
オイル仕上げの無垢材は、紫外線と酸化で全体が均一に濃くなる。真鍮や革と違い、部分ではなく面で変わるのが特徴である。
半年で、家具を置いた床との色差が分かる。数年で、買った当初の写真と並べると別物に見える。ただし直射日光の当たる面だけが先に進むので、窓際に置くなら向きを時々変える方がいい。
傷は残る。木は、傷が残ることを前提にした素材である。

三つに共通すること
どれも、変化を止める方法はある。真鍮には塗装があり、革には樹脂コートがあり、木にはウレタン塗装がある。買った日の姿を保てる代わりに、その膜は数年で剥がれ、剥がれた跡は元に戻らない。
無塗装やオイル仕上げを選ぶというのは、変化を受け入れる代わりに、直せる状態を保つという選択である。買った日の姿を守るか、十年後の姿を選ぶか。物を選ぶときの分かれ道は、たいていここにある。
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